岡本かの子『老妓抄』

岡本かの子『老妓抄』(新潮文庫)読了。
岡本かの子には、『東京百話』(種村季弘編、ちくま文庫)所収の『鮨』を読んで、すっかりやられてしまったのだ。
その伏線として、菊地成孔『スペインの宇宙食』で、鮨とフェティシズムとの関連について示唆を得ていたことがある。
その上で、『鮨』を読み、母親が息子に鮨を握ってやり、息子がそれを次々と平らげるシーンで、うわ、なんというフェティッシュな文章、これは戦前の文章じゃないでしょ、と、大いに驚き、感銘したのだった。
『老妓抄』には、『鮨』を含む9編の短編が収められている。全体的な話の枠組みは、やや図式的な嫌いがあるが、個々の描写でツボにはまったときの表現の高揚感は、やはり素晴らしい。