井伏鱒二「荻窪風土記」 小山清

荻窪風土記 (新潮文庫)

荻窪風土記 (新潮文庫)

日日の麺麭・風貌 (講談社文芸文庫)の解説に、"彼のことを書いた一番いい文章は、井伏鱒二の『荻窪風土記』のなかに入っている「小山清の孤独」であろう。"とあったので、古本屋で購入。井伏鱒二の文庫の中でもよく見かけるものの一つだと思う。
関東大震災被災の経験から、その後荻窪に転居し、戦後にかけての交友関係などを綴ったもの。
関東大震災の直後、当時住んでいた早稲田から歩いて立川に行き、中央線経由で故郷の福山に帰るくだりが非常に興味深い。朝鮮人暴動のデマが相当浸透していて、自警団が目を光らせていること、避難民を乗せた列車が途中の駅に着くたびに、炊き出しなどの接待を行う様子などが記されている。
時折、詩が挿入される。それがまたよい。ひょっとすると文章より好きになるかもしれないとすら思った。